苦い舌と甘い指先






「んー……俺のものになったのかって思ったらなんかこう、確かめたくなった」


「……何を」



「腕の中に君が居る感触」




言いながら抱きしめる力を強くしてくる。最初は長い腕から逃れようともがいていたあたしだけど、肥後の…なんつーか、いつもと違う声色に 暴れる事を やめた。



床に一つの黒い影が浮かび上がっていた。



小鳥が寒空の下、五月蠅い程鳴いている。





………なんだこれ、なんか、胸がぎゅってなる。



「肥後……そろそろ離せ…」


「無理」


「何でだよ」



この間にも心臓がどうにかなっちまうんじゃねーかって位に暴れ回っていて。


苦しいのとはちょっと違うけど なんか、なんて言うか 恥ずかしかった。



自分だけいつもこの男に翻弄される。こんなにドキドキするのは多分いつもあたしだけ。


背中に感じる彼の温もりは、落ち着いた音色を奏でていた。でも…




「……余裕、ないから」



「………あ?」




突然聞こえた苦しそうな台詞に、身体を捻って顔を覗き込む。



そこにはいつもの笑みなど消え失せたかのような、眉尻の下がった彼の姿があった。



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