苦い舌と甘い指先




だけど、その日常は、いとも簡単に崩れ去った。



「カレシ?」


「うん、そう。えーちゃんね、彼氏ができたの。

だから、今までみたいにジュノちゃんといっぱい遊んだり出来なくなると思う」


「…カレシって、何?」


「……うーん。えーちゃんのね、大好きな人、かな」



嬉しそうに、顔をだらしなく緩ませる彼女に、ちょっとだけムカついて。


「…ジュノより?ジュノよりもカレシが大好きなの?」


意地悪だと思っていたけど、つい口からそんな言葉が出てしまったんだ。



えーちゃんは困った様な顔をしてから、ちょっとだけ屈んであたしの目の位置に高さを揃える。



「そういうのはね、比べられるものじゃないのよ?

ジュノちゃんだって、お父さんとお母さん、どっちがい言って聞かれても困っちゃうでしょ?」


「ジュノ、かあちゃんのが好きだよ!!」



「え!!う…うーん…。例えが悪かったね…」



えーちゃんの言っている意味が良く分からない。


そして、えーちゃんは更にあたしになぞかけの様な言葉を残した。



「ジュノちゃんも恋をすれば分かるよ。

家族は家族。恋人は恋人。


どっちも好きだけど、やっぱり一緒に居て幸せになれるのは恋人よ。私は、だけどね」



そう言って、笑いながら出掛けて行くえーちゃんの後姿を見えなくなるまで見つめていた。



恋ってなんだろう。恋人って?カレシって?



それは、えーちゃんにとって、大切なもの?



だからジュノと遊んでくれないの?



よく、分からない。



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