史上最強お姫様の後宮ライフ覚書



「――さぁ、言いなさい。何故姫様付きの侍女である私を狙ったのか。」


その一方で、リスティーヌは黒ずくめの男の首元へ剣を突きつけると、そう威圧した。

しかし、目の前の男が反論しないことを確認したリスティーヌは心の内で安堵する。

理由は定かではないが、自分が昼の間に城内をうろついたことで、「この服を着ているのは新しい姫様付きの侍女」という認識を皆がしたはず。

だが万が一、自分がリスティーヌだと知られてしまっているのならば厄介なことにはなっただろう。

その点、反論しないのならば、この男は自分を侍女として認識していると見て間違いないはずだ。


「まぁ、貴方も暗殺者だもの…例え殺されようとも依頼主の名は吐かないでしょうね。」


クスクスと笑いながら、リスティーヌは黒ずくめの男の首筋に刃を滑らせる。

つう、と赤い血が流れ、男の瞳に動揺の色が浮かぶのを確認すると、リスティーヌは剣を納めた。


「依頼主に伝えなさい。ラキアヴェルの女騎士とてそう甘くはない、と。」


そして、口惜しそうにその場を去る暗殺者の後ろ姿を眺めながら、リスティーヌはため息を吐く。

演技とは言え、なかなかの出来にむしろ苦笑が漏れてしまう。



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