Soft Luck ―ファンタが街にやってきた―
わたしはアルコールによるうつろな気分で、ふぁんたがいれてくれた食後のコーヒーを飲みながら、せっせと食器を洗う彼の後ろ姿をながめていた。
「ねえ、アメリカの家でもそうやって家事してたの?」
「休日の食事の支度は男の役目だったの。食器はマシーンが洗うんだよ」
「幸せそうな家族ね。テレビドラマみたい。あなたのエリアの家庭ってみんなそうなの?」
「そうでもないよ。僕の小学校時代はクラスの三分の一が片親かステップファザー
オア マザーと同居で、ひどい親はクスリなんかもやっていて生活環境なんて目茶苦茶。とりあえず月なん日かでも、仕事していればましってくらいの人たちもいた」
「ステップ?・・・あぁ。その子たち、義理の父親とか母親とはうまくやれてたの?」
「人によるけどたいていは子供のほうが一度は家出していた。そんな時は僕の家がYMCAの代わりなの」
「YMCA?ああ、寝泊りできるってことね。じゃああなたの家は特別なんだ」
「ていうか、両親は若い頃見た日本のテレビのアメリカンホームドラマに憧れていたんだって。それでアメリカの生活はそういうものだって思い込んでて、そのまま実践していたらしいよ」
「素敵なご両親ね、羨ましいわ」
なんてちっとも思わなかったけど、そう言った。
「うん、とってもね。姉さんにも味わわせてあげたいな」
ふぁんたは素直に喜んだ。