【短】生徒会の秘蜜〜非日常的な日常〜


「なぁ、來美?」


「ん、どうかしましたか?」


たどり着いた教室の扉の前。

扉を開くためにかけた手をそのままに、那智くんはあたしを見つめながら形のいい唇で名前を呼んだ。

紫がかった髪と同色の瞳を見つめ返すと、目尻をほのかに赤く染めた那智くんが見えて。

可愛いなぁ…なんて男子に思うのは、失礼かもしれないけど。


「もし教室に誰もいなかったりしたら、このままどっかに行かねぇ?」


「えっ…?あたしと、ですか?」


「あ〜、その…來美が嫌ならムリにとは言わないけど」


目尻をさらに赤くした那智くんは、先ほどよりも乱暴に髪を掻いた。

照れてるのかな?…なんて、顔を覗き込めばプイッと視線を逸らされた。

シーン…と、廊下と同じく静まり返っている教室内。

結局、教室まで誰ともすれ違うことは無くて…正直、教室に誰かいるとも思えない。

那智くんからの誘いは思いがけないものだったけれど……


「いや、なんかじゃ…ないですよ」


「……へ?」


イヤなんかじゃない。

こんなふうにあたしを遊びに誘ってくれる人は今までいなくて、イヤどころか嬉しくも感じている。


「どこに行きましょうか、那智くん?」


驚きのせいか惚けた表情をした那智くんに、口元を綻ばせながら微笑んで訊ねてみる。

少しの間惚けたままだった那智くんは、しばらくしてから照れたようにはにかんで……


「行きたいとこは來美が決めろよ。俺は…來美となら、どこでもいいから」


「え……?」


徐々に那智くんの言葉の語尾が小さくなっていって、よく聞こえない。


「ッ……なんでもねぇ!とりあえず、教室入るぞ!」


「あ、うん。……?」


小首を傾げながら那智くんを見返せば語気強くそう言われ、聞こえなかった言葉は隠れて見えないまま。






あたしは聞こえなかったその言葉が、妙に気になってしまった――――……

< 2 / 33 >

この作品をシェア

pagetop