仮想世界に生きる少年
11. 先生
俺が学校のPCにアクセスしたときに、『綾瀬マナ』という人のデータをチラッとだけ見たから顔を見てわかった。



「どうして、知っているの」


「友達が言っていました。美人な先生がいるって…」




嘘だ。




「あら、嬉しいわ。よかったら見学してみない」


「結構です」


「これから用事でもあるの」


「いいえ、ありません」


「それなら見学しなさい」


「強制ですか」


「何事もチャレンジが大切よ」








そう言うと先生は俺の手を掴んで校庭へ連れて行った。






「はーい、皆集合」




部員の奴らが集まってきた。


「今日の練習をする前に、一人見学者がいるので紹介します。名前は…」


「山本です」


「山本君が陸上部の短距離の見学に来ました」


「先生、体育着を来てもらわなくていいんですか」


「いいのよ、見学なんだから」


「ミーティングを始めます」









練習メニューを話し、各自で体操が始まった。









先生は俺の隣にいた。





「山本君は短距離に興味があるの」






「ありません」






「そう、百メートルのタイムはどれぐらいなの」






「測ったことがありません」






「五十メートルは…」






「ありません」






「中学時代に測定したでしょ。スポーツテストで…」






「俺は一度も学校に行ったことがありません」









先生は沈黙した。






そしてハッとした顔をして俺の方を見た。







「山本タクヤ君…」







「先生…」
< 34 / 164 >

この作品をシェア

pagetop