gently〜時間をおいかけて〜
母親がいる病室の前に立つ俺は、ためらっていた。

何日も帰っていなかったから、母親は怒っているかも知れない。

怒られることなら、それは承知のうえである。

でもそれ以前に、俺は母親と顔をあわせるのが怖いと思っていた。

俺はちゃんと、母親の無事を確かめたいと思っているだけなのに…。

何かがあると言うことは、すでにわかっているのだから。

俺はドアノブに手をかけた。

――落ち着け、俺。

ドキドキと、心臓が激しく脈を打っている。

それを落ち着かせるように、俺は深呼吸をした。

グルッとドアノブを回して部屋の中を見た瞬間、
「――親父…?」

俺は驚いた。

母親のベッドの隣にいたのは、仕事のはずの親父だった。
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