gently〜時間をおいかけて〜
その電話があったのは、夜だった。

テーブルのうえに放置していたスマートフォンが鳴り出した。

「航」

あたしは航からの電話だと思った。

ちょうどその時、あたしは夕飯の後片づけをしていた。

蛇口を閉め、エプロンのすそで手を拭きながら、あたしは鳴り続けているスマートフォンへと足を向かわせた。

スマートフォンを耳に当てると、
「航?」

声をかけた。

電話に出て名前を呼んだものの、返事がない。

イタズラか?

そう思って、電話を切ろうとした時だった。

「――あの…」

か細い声だった。

声の様子からして見ると、女であることは間違いなかった。
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