gently〜時間をおいかけて〜
航の声が、静かなこの部屋に響いた。

「ありがとう」

そう言われた瞬間、あたしは航の胸の中にいた。

「――航…?」

背中に回された両手に、あたしは目を閉じた。

鼻に感じるのは、航の匂い。

肌に感じるのは、航の体温。

全てに安心して、ホッと胸をなで下ろした。

こうして誰かのぬくもりを感じたのは、久しぶりだった。

「航は、悪くないからね?」

胸の中でそう言ったあたしに、答えるように航は背中をさすった。

それにもホッとして、まぶたが重くなって行くのがわかった。
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