この涙が枯れるまで

病院には5歳上の兄がもう来ていた。


『お兄ちゃん!!!』


『…ナナ』


『…お父さんとお母さん…は?』


兄は首を横に振るだけだった。

兄の目から涙が溢れていた。


この時現実がはっきり見えた。

両親が死んだという現実。


『お兄ちゃん…嘘だよ…』

『嘘じゃないって!!ホントだよ…』


私は現実が見えたはずなのに、うまく見えない。

何で…?

涙で視界がおかしくなったのかな。


『…これからどうするの?お父さんもお母さんもいなかったら…どうするの?』

これからどうすれば良いのだろう。

大事な両親を亡くして、しかも私達はまだ幼い子供なのに。

普通ならお祖母ちゃんとかに引き取られるはずだ。

でも私にはお祖母ちゃんはいない。

私が生まれる前に亡くなったから。


私達は行くあてがなかった。


『…後から考えよ…家帰るぞ。もう手続き済んだから』

『うん…』

まだ中学三年生の兄がとても男らしく見えた。


兄も不安でいっぱいなのに。


ずっと私の手を握って家まで行ってくれた。


そして家に着く。


今日元気よく家を出ていった家。


今日笑顔で送ってくれた母がいた家。


今日私が行く前に、『今日も頑張れよ』と言って会社へと行った父がいた家。


今では

『ただいま』

と言っても、母の笑顔も父の笑顔も見えない家となっていた。


また涙が出てくる。




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