あたたかな雨
私の顔を陸奥くんが一瞥する。
すると、彼は雨が大降りしている中へ飛び込んだ。
え?
うそっ!
そんなことしたら陸奥くんが……!
「えっちょっと……!」
「その傘、明日返してくれればいいからねー」
左の道に進む陸奥くんの声がどんどん遠くなっていく。
どうしていいかわからずあたふたして立っていると、彼は角を曲がって消えてしまった。
完全に消えてしまった彼に私は戸惑いながら、その場に動けないでいた。
雨が地面に落ちる音だけが耳に届く。
ここにいても、仕方ない。
彼に、どうやって恩返ししよう。
そんなことを考えて、陸奥くんとは反対の道へ足へ踏み出した。