こんな僕たち私たち
1章-11<おそろいと、ちょっとした変化>
「――で。泣き終わってすっきりしたら、何かすっごい好きになっちゃってたんですよねぇ」

遠い思い出に浸ってほんわか気分の私に、黒岩先輩は一言こう返した。

「あっそ」

「先輩、反応薄…」

「あたりまえじゃん。あんたの恋話なんか聞いてたってつまんないっつーの。そのにやにやした笑いを止めたくて話させてやったんだよ」

「…そーですか。」

先輩、相変わらずキツい所はキツいまま。

「結局さぁ、そのヤマザキだかヤマガミはあんたに何て言ったわけ?」

「さぁ」

それは今でもわからずじまいだった。

多分七緒は聞こえていたんだろうけど、教えてくれた事はない。

私も訊ねなかったし、訊ねる気もなかった。

「ちっちゃい頃の喧嘩ですから。お前の母ちゃんでーべーそとかそういうのじゃないですか」

ちなみに私の母ちゃんでべそじゃあないです、多分。
もっとちなみに、昔自宅でへそピアスを開けてその現場を見た5歳の息子を泣かせたのは、七緒の母。

「ふぅん。お前の母ちゃんでべそ、に東君は激怒したわけか」

「…それもよくわかんないですね。まぁ、もうそんな昔の事は気にしてませんけど」

結局、最後まで柔道に夢中にはなれなかった私は、しばらくして道場をやめてしまった。

七緒も、中学に入ってからは部活一本にしているようだ。

あの時もう少し楽しんで習っていたら、今頃は私も柔道部員だったのかな。

歴史の流れを感じるって言ったら大袈裟だけど、少し懐かしいような寂しいような気持ち。

遠くから聞こえる、校庭で遊ぶ生徒の声。

校舎からは、吹奏楽部の昼練の音色。

誰かを咎めるような、教師の甲高い怒鳴り声。

そういえば今年の1年生には結構荒れた奴がいるって聞いた。

もしかしてその人が暴れてるのかな──。

そんな事をぼんやり考えていた私は、突然額へ来た軽い衝撃に面食らった。

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