渇望-gentle heart-
流星の言葉に、彼は背を向けたまま、後ろ手に手を振った。



「…叔父さん?」


「そう、父方のね。
あれから、差し入れしてくれたり、面会来てくれたり、色々と世話になってたんだ。」


懐かしむような顔をして言った彼を見た。


流星もまた、この一年半の中で、人の優しさに触れたのかもしれない。



「お父さんは?」


聞いたあたしに彼は小さくかぶりを振り、



「一度も会いにはこなかった。
けどさ、だったらこっちから会いに行って、謝らなくちゃ、って。」


強くなったね、流星。


目に見えたものしか信じようとしなかった彼もまた、この一年半の中で、何かを得たのかもしれない。



「お前にも随分迷惑かけて、俺、合わせる顔なくて。」


「良いの、それはあたしの弱さでもあったから。」


あたしだってもう、過去の自分からは目を背けないよ。


色んな事に理由付けをして、誰かや何かが悪いからと言いながら逃げてきた道を、ちゃんと見つめることが出来るようになったから。


こうやって向き合っていると、会えなかった一年半の間が蘇る。



「俺さ、本当はずっと香織に会いたかったんだ。
何度も手紙書いて、でも出さずに捨てて、自分と闘ってきた。」


「うん。」


「全部失くして、一番強く残ってたのが、香織との記憶だったから。」


風が吹いた。


優しくて、また涙が出た。



「だからこの一年半を過ごして、俺も香織のこと愛してるって、気付いたよ。」

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