渇望-gentle heart-
真綾の入院中、常に一緒にいる中で、色んな事を話したね。


強がることも、虚勢を張ることもなく、ありのままの自分でいられたのは、きっと相手が真綾だったから。


俺にとってはさ、あの街で、初めて楽しいって思えた時間なんだ。


真綾はいつも必要以上に大人になろうとしていた俺を諭してくれ、そのままを受け止めてくれたよね。


だから、変われたのはお前のおかげ。



「ジローのそれは、ただの同情や。」


それが含まれていないといえば、嘘になるのかもしれない。


けれど、今、この瞬間に一緒にいたいと思ってるのは、真綾だけなんだ。


だからどうか、自分の傷を醜いものだと思わないでほしい。


こんな日々を繰り返す中で、いつしか俺は、真綾の存在に心洗われるようになっていたから。



「…うちはひとりで生きていくって決めてんねんっ…」


強がらないで、泣かないで。


どんなに痩せ細って、大きな傷が出来てしまったとしても、人の根本は何も変わりはしないのだから。


真綾が信じられないなら、今はそれでも良い。



「ホントは寂しがりのくせに。」


「うっさいわ!」


口を尖らせる彼女を見て、俺は笑った。



「なぁ、俺が一緒にいたいって言ってんのじゃ、不満?」


残念ながら俺は、上手く言葉では伝えることが出来ないけれど、でも、真綾と一緒に生きていきたいと思ったことに、偽りなんかない。


それは、あの頃から今でもずっと、変わることのない俺の気持ち。

< 42 / 115 >

この作品をシェア

pagetop