青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―



「どう誘われても俺は」

「プレインボーイ。返事次第じゃ、前に会ったダチ。見逃してやってもいいぜ」


心臓が凍った。

どういう意味だ。前に会ったダチって利二のことか。


まさか、また利二に何か手を下そうとしているんじゃ。

あいつは関係ないじゃないか。不良でも舎弟でもないんだぞ。


俺の友達ってだけで不良達とは関係ッ……俺と関わってるからあいつにまで被害が。


激しく動揺していると、

「そうやって姑息な手ぇ使ってくる」

ヨウが話に割ってきた。


「本当は五木のこと、よく憶えてもねぇくせに。お前はいつもそうだ。自分の利害になる奴以外、顔なんざ一々覚える奴じゃねえ」

「どーだろうな。憶えているかもしんねぇぜ?」


「ッハ、ムカつくぐれぇ口だけは達者だな。どっちにしろ手ぇ出してみろ。舎兄の俺が黙っちゃねぇぞ。仲間にしてもそうだ。ケイにしてもハジメにしても、俺の仲間を甚振った礼はぜってぇしてやる。行くぞ、ケイ。こいつ等と話すだけ時間の無駄だ」


ヨウ、お前……。


ありがとう、ヨウ。


お前なりの気遣いは受け取らせてもらったよ。マジでありがとう。

お前の言葉ですっげぇ安心する自分がいる。


でもお前、やっぱどっかで責任感じてんだな。俺を巻き込んだこと。ノリで俺を舎弟にしちまったこと。


今の台詞でそれが十二分に伝わってきたよ。ヨウ、何も気にしちゃないよ、俺は。

と言ったら嘘になるけど……俺はお前を咎めるつもりなんてねぇよ。


約束したもんな。俺達で、イケるところまでイくってさ。


軽く背中を叩いてくるヨウと一緒に、俺はシズと響子さんのいるもとへと歩き出した。

舌打ちをかますヨウは胸糞悪いと愚痴りながら、一段一段、踏み付けるように階段を上っている。


「ああ、忘れていた」


ヨウは途中で足を止めて、日賀野に向かってこう告げた。 


「お前等、特にお前。ぜってぇ潰してやっから。今日は潔く引いてやるけどな」

「ほぉー。そりゃまた物騒なこった。まあ、こっちはグループが分裂した“あの日”からそのつもりだったが」


薄ら笑いを浮かべる日賀野の眼は本気だった。

「だと思ったぜ」

ヨウは鼻を鳴らした。


「テメェ等は俺等をマジにさせるために、ずっと挑発してきた。そう解釈するぜ?」

「勝手にしろ。どう思われようが、テメェ等の存在は目障りだ。潰してやるよ、荒川」

「そのまんま返す。今までいいようにテメェ等の手の平で踊らされたが、俺等だってもう我慢なんねぇよ。ヤマト」


今度はこっちから仕掛けてやっから。楽しみにしとけ。

ヨウはアイロニー帯びた笑みを浮かべた。これは日賀野達に対する宣戦布告だ。


まさかこんなにも早く宣戦布告するなんて思いもしなかったぜ。


同じようにニヒルチックに笑う日賀野もまた宣戦布告の意思を見せた。

ようやく本気でやり合える、そんな満足気な顔だった。

日賀野は魚住や帆奈美さんを呼んでいた。

向こうも今日のところは引き下がるようだ。


「なんじゃいヤマト。なぁあんもせんのか。つまらん。奴等の面を拝みに行くって言うけぇ、何かするって期待しちょったんに」


肩を竦めてツマラナイと脹れる魚住に、「機会は幾らでもある」日賀野は細く笑った。


「男って本当に争いが好き。呆れる」


帆奈美さんは盛大な独り言を吐いてこっちを見てくる。

否、帆奈美さんはヨウに眼を投げているみたいだった。


気付いているのか気付いていないのかヨウはまったく彼女に目を向けなかった。涼しい顔で背を向けている。


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