青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「よろぴく。ケイちゃーん」
「アイダダダダ! い、痛いッ! ええっとっ」
「ワタルでよろぴく。うわぁ、ホント、染めてない髪。天然物だねぇー。染めないの?」
「イデー! 髪引っ張らないでくれ!」
容赦なく髪を引っ張られて俺は悲鳴を上げる。
三本ぐらいブチって抜けたような感触がした。
マジ痛いんですけど。
ホント、真面目に痛いんですけど。
俺が頭を抑えて悶絶する間も、貫名渉……いや、ワタルさんは俺の髪を見て「何色が似合うかなー」とニヤニヤ笑ってくる。
茶、赤、青、紫、金に銀。
物騒な色を俺の隣で唱えているワタルさんは、俺の髪にピンクなんて似合うんじゃないかと提案してくる。
仮に染めるとしても、ピンクは、ピンクは絶対に嫌だ。
大きく首を横に振って嫌だと態度で示せば、ワタルさんが物は試しってニヤついた顔で言ってくる。
からかっているのは見え見えだ。
悔しいんだけど反論する度胸がないんだよ、俺には。
心の中じゃ何だって言えるんだけどな! 自信持って言える俺が悲しいよ!
「ヨウちゃーんの舎弟かぁ。いつから?」
「き、昨日から」
「ビックリビビンバーン! 成り立てホヤホヤじゃーん、ケイちゃーん! だから、まだ髪染めてないわけかぁー。いつ染めるの?」
「いや、染める予定は」
「ないのー? それはヤバヤバーンじゃないのー?」
さっきから思うんだけど、ワタルさんって一々リアクションが大きい。
ちょっと大袈裟で口調がウザイ。
口が裂けても言えないけどさ(言ったらマジ、俺の命危ういよ)。
「ワタル。うぜぇってその口調」
「僕ちゃーんショッキング!」
俺の思っていたことをヨウが言った。
さすが天下の荒川庸一、どんな相手でもお前なら喧嘩売れるよ。
神様だってお前に喧嘩売られたら半べそだよ。
あからさま傷付いた振りをしているワタルさんは胸に手を当て、
「ヨウちゃーん、酷い」
嘘泣きしている。
男が嘘泣きってどうよ。男が嘘泣きって。引くって。
綺麗にワタルさんの態度をスルーするヨウは、大きな欠伸をまた一つ零した。