青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
向かう先は同じく入院中の仲間のところ。
パスパス、乾いた音を奏でるスリッパが脱げないよう足元に注意を払いながら、まず俺達の病室から一番近い病室に入院中の弟分の下に向かった。
キヨタのところも四人用大部屋の病室で中に足を踏み入れると四十過ぎのおじさんと目が合い、軽く会釈された。
どうもどうも、の意味で俺も会釈。
窓辺を陣取っているキヨタのベッドに足を運ぶ。
「あ、ケイさんじゃないっスか!」
ベッドの前に立つと、そこに身を置いていたキヨタがパァッと目を輝かせて手を振ってきてくれる。
「よっ」
俺はキヨタに手を振り返し、側らのスツールに腰掛けているモトにも声を掛けた。
どうやらキヨタがモトを病室に連れ込んで個別に五十嵐のことと、それから『漁夫の利』作戦のことを聞いていたみたいだ。
説明を買って出ているモトはすこぶる、ヨウの決断にすこぶる落ち込んでいるようだ。
重々しく溜息をついている。
俺を一瞥して、また溜息。二度溜息。三度溜息……なんだか非常に失礼な態度を取られた気分になったけど(なんで俺を見て三回も溜息だよ!)、気を取り直して二人に話を持ち出した。
「キヨタ、モト、頼む。協力をしてくれ。ヨウが馬鹿なことをしそうだ」
瞠目する後輩達に「まずいことになりそうだ」手遅れになる前に協力をして欲しいと眉を寄せた。
キヨタの病室を後にしたその足でワタルさんの下に行く。
「おややーん? ケイちゃーんじゃん」
漫画片手に手を振ってきてくれるワタルさんに、俺は会釈をして側にあったスツールに腰を掛けた。
ワタルさんは重傷だったせいか、個室だ。気兼ねなく話せる。
早速話を切り出し、俺はワタルさんに協力を求めた。
最後まで黙って話を聞いてくれたワタルさんは「オモシロソーじゃん」ノってあげるとニタニタ顔で頷いてくれる。
安堵の表情を見せる俺に彼はふふんと鼻を鳴らす。
「ヨウちゃーんも大概で馬鹿なんだよねぇ。僕ちゃん達を舐めているってゆーのかなぁ。
付き合いの長い僕ちゃーんだから? ヨウちゃんの出した案だけで意図はなんとなく分かっていたよ。シズちゃーん達も一緒。
ケイちゃーんが動かなかったら、きっとシズちゃーん辺りが動いてた筈だぴぴっぴ!」
……うざ口調はスルーだぞ、俺。
「ですよねワタルさん。ヨウは完全に俺達を馬鹿にしていますよね。というか、勘違い?」
「思うぴょーん! ヨウちゃーんは勘違いをしている。僕ちゃん達はチームだってこと。今回の敗北はチームがしたってこと。
それなのにヨウちゃん勘違いとか乙! 勘違いリーダーを持つ僕ちゃん達苦労スリュー」
「ほんとうに苦労しますよ。さてと、俺はそろそろ戻らないと……帰りが遅かったらヨウに怪しまれますから。
ワタルさん、早速シズに伝言をお願いします。俺はヨウと同じ病室だから、行動が起こせるのはワタルさん達です」
「へいほー。リョーカイ」
ニヤニヤしているワタルさんは俺が病室に戻る際、
「そのリーダーシップはヨウちゃんに似た?」
褒めてきた。
いやいやいや、そんな素質は俺に一ミリもないし(不良を束ねる素質なんていらねぇし!)、リーダーはヨウ、もしくはシズだと思っている。
今、俺が行動を起こしているのは、俺がヨウの舎弟だからだ。
なあヨウ、俺はお前の舎弟だ。
舎兄のことを理解してナンボの舎弟だと思う。
舎弟だからこそ、時に憎まれ役を買わなきゃいけないんだと思うよ。お前はきっと俺達がこれから起こすであろう行動を止める。やめろとも言うし、主犯の俺に憤りも見せるとも思う。
ははっ、しょーがないから怒られてやるさ。
それでお前の馬鹿が止められるなら、俺はなんだってやってやる。俺はお前の舎弟なんだからさ。
「あーあ、俺っていーっつも不良に振り回さればっか、不幸な男だぜ」
廊下を歩く俺は思わず苦笑交じりの独り言を吐く。
シンと静まり返っている廊下に、やけに馬鹿でかくそれは響き渡った。