青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―

#09. PRIDE ROCK(後)





【東S-4倉庫前】



ガンッ――!


顔面に拳を入れられた相手がガクンと膝を折る。


つんのめる体を受け流し、否、その腕を掴むと自分に向けて振り下ろしてくる角材の盾として使う。


二重に痛みを喰らった相手は失神、白目を剥いて鼻血を流していた。


なんともブサイク面、直視したヨウは心中でドン引きながらそいつの体を力の限り、向こうに投げ飛ばす。


息をつく間もなく、横から拳が飛んでくる。危うくダメージを食らうところだったが、割り込むようなカタチでシズが掌で受け止めてくれたため、難を逃れた。


軽く息を上げているシズは相手を薙ぎ払うように蹴りを入れた後、ヨウの背後に立ち、思わず本音を漏らす。


「想像以上に……持久戦だな。数が多過ぎる」


ツーッとこめかみから流れ落ちる汗を手の甲で拭い、シズは右ナナメ後ろの鉄パイプを避けるために跳躍。倣ってヨウも同じ動作をする。


「まったくだ。合図送って随分経つってのにヤマトの奴、なあにしてんだッ、か!」


一向に現れない本隊に苛立ちを募らせる。


あの本隊の指揮官を任せているのに……まさかヤラれた?


いやヤマト達が簡単にヤラれるとは到底思えない。


考えられるのはヤマトの突拍子もない作戦変更。ヤマトはより効率的な作戦を見出すと、相談無しに変更する悪い癖があるのだ。


喧嘩に熱中すればするほど深慮になるヤマト。


今の作戦よりもっと好都合なやり方を見つけたとしたら、一向に姿を現さない本隊の辻褄も合う。


「だったら許さねぇ。俺達の頑張りがパァとかどんなお笑い種だ」


舌を鳴らすヨウは感情のまま立ち阻む敵の股間を蹴り上げた。


なんてえぐい攻撃を、シズは敵に対し些少ながらも同情の念を向けてやる。


相手は完全な八つ当たり対象だ。シズは感情のまま拳を振るうリーダーに肩を竦めた。


しかし、どちらにせよ、このままではこっちの不利。


本隊が現れてくれないと此方のスタミナが持たない。時間の問題だ。


まあ、自分達はともかくヤマトの仲間が斬り込み隊に身を置いている。


助けに来ないということはないだろう。


喧嘩ではなく死闘と化している戦場でシズは、早く本隊が来てくれることを願いながら素早くしゃがみ、相手の振るってくる鉄パイプを避ける。

その際、ズキッと体に痛みが走った。


そういえば自分達はまだ怪我が完治してないんだっけ。嗚呼、不利に不利が上塗りではないか。


(ヤマト、早くしろ……でないと持たないぞ……自分達の体力に、それから)



「うっぜぇんだよ!」



鼓膜が裂けそうな怒鳴り声に溜息をついてしまう。


このままではリーダーの堪忍袋も持たない。ヨウの堪忍袋の短さと脆さを知っているが故に、シズは現状に匙を投げたくなった。





さて、そのシズの溜息の元凶の男は感情を沸騰させている真っ最中だった。



本隊の姿は見えない。

敵数は多い。

五十嵐は目前なのに、奴のいる倉庫と距離がある。


些少の距離が何百メートルも先の道のりに見える。


怒りは沸点に達しそうだ。

早く五十嵐をこの手で……グッと感情を押し殺し、冷静を保つよう努める。


(熱くなるのは俺の悪い癖だ。散々仲間に指摘されたじゃねえか)


また周りが見えなくなるところだった。

何よりも自分に必要なのは冷静な判断。


何に今、集中し信用を置かなければいけないか、よく心に留めておかなければ。


確かにヤマトには相談無しに作戦を変更する悪い癖がある。


それはそれで勝利のために行動していること。


もし仮にそのような行動を起こしても、きっとヤマトとその仲間は自分達の前に現してくれる筈だ。


癪だが今は真っ直ぐ信じよう、向こうの指揮官を。向こうの長けた判断力と冷静な洞察力を。


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