チャンピオン【完】

私がタオルで顔を隠して花道を去る間も、観客は激しく優しかった。


「頑張ったのに残念だったな~!」

「面白かったぜ、ねーちゃん!」

私は肩を落とし、「しょっぱい試合してスミマセン... 」と心の中で彼らにお詫びした。



『ちょっと待てぇ!!』

いきなり会場に響く、マイクでの大声。

音量の幅を超えたらしく、キィンと言う残響が更にこだました。



此方に向かって指をつきつけたマグマが、リング上から怒鳴っている。


「私... ?」

自分を指さして首をかしげた私の腕は兄貴に掴まれ、横にどかされた。


花道に残った貴丸がだるそうに振り向き、離れた場所で対峙する二人に再びシンとした会場が注目する。


『こんな勝ち方したって面白くねぇ!! 今度はタイマンで勝負しろ!!』

貴丸にむかってマイクが差し出されたが、彼はそれを自分の血のついた手で制した。


それから舌出してマグマに向かって中指つきたて、次は寝かせた親指で自分の首の前を横に一直線。

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