いばら姫と王子様 ~AfterDays~
§隠したいモノ

 └弥生Side*****

 弥生Side
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退院も間近に迫っていた、麗らかな午後――。


突然、真紅色を纏った美女が、私――宮原弥生の病室に現れた。


丁度私が、同じ病院で入院している友達――神崎芹霞の病室から帰ってきた処だった。


芹霞は心臓に大怪我を負ったらしく、一時は面会謝絶となりかなり心配していたけれど、今は凄く元気になっていてほっとしている。


紫堂くんの従兄の玲様がドクターであったのは驚いたけれど、その時並に驚いたのは、芹霞の姉である赤い――神崎緋狭さんが、芹霞の病室ではなく私の病室に立って居たから。


いつか芹霞の家で会った時には、こちらが赤面する程の色気を放つ乱れた襦袢姿で、長い黒髪を胸元に艶めかしく絡みつかせていたというのに、久々に会った緋狭さんは、赤い外套を纏いながら、その黒髪を耳元の長さまで切り落とし、凛とした…崇高で理知的な輝きを放っていた。


芹霞が「昔の緋狭姉は……」とよくぼやいていたけれど、恐らくこの姿こそが本当の緋狭さんであって、あの襦袢姿は仮の姿ではなかったんじゃないだろうか。


人なんて外見はすぐ変えられる。


だけど人間の本質は――その目の輝きというものは、周囲を簡単に騙しきれる物ではない。


環境に擬態できない輝き、それこそがその人間の生来持つ物だ。


からかう口調ながらも、相手を見透かすような鋭い眼差しをしてくる緋狭さんを、いつも怖いと私が感じていたのは、恐らく神々しいまでに輝いて現れた、緋狭さんのこの姿に繋がるモノを予期していたのだと思う。


彼女は、普通側の人間じゃない、と。


だから怖かったんだ。


私の劣等感を、彼女は見抜いているような気がして。


「突然訪問して悪かったな」


優しげに微笑んだ緋狭さんは、私が薦めるパイプ椅子に腰掛けた。


美人は、座る様までうっとりする程美しい。


伸びた背筋に、組まれた長い手足。


片腕だけれど、それは美を損なうものではない。



「まだ――夢は見ているのか?」



私を現実に戻したのは、緋狭さんの言葉だった。
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