いばら姫と王子様 ~AfterDays~
 
芹霞の言いたいことは判った。


芹霞の使っているこの病室は、VIP専用の豪華な個室とはいえ、病院の1区画に存在する。


当然、病院には病死者も居るはずで。


「まあ――でないこともないだろうね」


僕がそう言うと、芹霞は顔色を変えて、1度ぶるっと身震いした。


芹霞は面白い子だ。


尋常ではない存在と平気で相対したくせに、一般的少女が怖がるようなホラー映画とか幽霊話は不得手らしい。


彼女が誰かを護ろうとする状況がなければ、彼女は年相応の可愛い姿を見せてくる。


そういう姿は――堪らない。


「この間、緋狭姉が来た時に言ってみたの。笑い飛ばして貰おうとしたのにね、何だか怖い顔で、この赤いお守りくれてね」


――声が酷くなったら開けろ。霊験豊かな"悪霊退散"の札が入っている。


「何でそんなもの持ち歩いているのよ、緋狭姉は~ッ!!! こんなもん渡されたら、余計怖くなっちゃって。まあ、緋狭姉流のジョークなんだろうけどね、お守りっていうから、捨てるに捨てられないし」


芹霞は途方に暮れた目で、手のひらの赤い小さな袋を眺めている。


緋狭さんが、芹霞に?


何でまたそんなものを――。


「声っていうのもね、たまに聞こえるだけものだから、精神的なものかもしれないんだけれど。

でも場所が場所だけに、あたしを呼ぶ声って不気味じゃない?」


「芹霞を、呼ぶ声?」


僕の声は知らず知らずの内に硬くなっていったと思う。

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