いばら姫と王子様 ~AfterDays~
 
医療法人紫生会 東池袋総合病院。


曰く付きの施設の残骸ある雑司ヶ谷から、近い場所にある病院にあたしは入院していた。


紫堂財閥の賓客扱いで、使わせて貰っているのはVIP用の個室。


風呂付きトイレつき。


ベッドがある寝室には、大型テレビや応接セットがあり、壁を隔てた向こうには、付添人の寝室まである。


ちょっとしたホテルより立派だ。


毎日、幼馴染の櫂と煌が訪れた。紫堂財閥の次期当主たる櫂も、紫堂の仕事が忙しいのか少し痩せてしまっていたが、それでもやはり人目を引く美貌は健在で、いつも静かな微笑みを絶やさない。


煌は無邪気で可愛いワンコのように、嬉しそうに病室に飛び込んでくるし、時々来る桜ちゃんの無表情さは相変わらずだけど、大きい目をくりくり動かしてあたしを見ているから、きっと桜ちゃんなりの"笑顔"を向けてくれているのだと思う。


先に退院した友達の宮原弥生と遠坂由香ちゃんも頻繁に顔を出してくれるし、あたしは少しずつ皆から元気を貰い、廃れた心が回復していった。


それは赦されることではないのだろうけれど。


そして玲くん。


料理・洗濯・掃除に裁縫何でもこなす、女性の鑑たる玲くんは、医師免許を持つお医者様でもあり、この2ヶ月、あたしの担当医として、付添人用の部屋に寝泊まりしていた。


心配してくれるのは判るけど、彼は櫂を補佐するお仕事がある。


――誰かが君を触れると考えただけで、不安で仕事が手につかない。それなら僕が君を触っていた方が能率いいでしょ?


医師らしからぬ際どい表現をして、またあの色気満載に微笑む。


あたしも、見知らぬ人に診察されるより、玲くんの方が何倍も安心だし、また彼とこんなに長く一緒にいたことはなかったから、内心喜んだ。


彼は消灯時間の9時には隣室に行くけれども、それ以外は看護師の仕事までとりあげてしまう程の献身ぶり。


美貌の医者に尽くされる贅沢な患者は、あたしくらいなものだろう。

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