有料散歩



光沢のある御影石。

美しく掘られた文字。

この下に、明花が眠る。


最後の一瞬まで、明花は幸せだったと呟き、先に逝く事を詫びた。


「明花…、ゆきに逢いたかったろうなぁ。」

御影石を磨きながら、ぽそりと呟く。
光沢のある石がますます輝き、陽に煌めく。

「おじいちゃん、お線香、点いたよ。」

「ああ、ありがとうな。」

二人で線香をあげ手を合わせる。

牡丹が、大きな花弁を揺らしている。


急に、ふ、と日が陰った。

雲に隠れたのだと思った芳郎が、何気なく空を仰ぐと、雲ひとつない晴天だ。


影は、芳郎の背中に突き刺すような視線をおくる男の、人影だった。


男は無言でその場に膝をつく。
はらはらと涙が零れる瞳を見開いたまま、芳郎を通り越し、墓を見据えている。

明花を悼んでの涙なのは、聞かずとも分かった。


「マー…、」


たった一言。
零れた単語。


芳郎はこの男が何者か悟った。



< 108 / 156 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop