有料散歩
「それ…、」
何かと尋ねようとして、夏はぐっと言葉を飲んだ。
まだ何も聞かないで令は発令したままなのだ。
春樹は以外と頑なで意地っ張り。そんなこと、とうに気づいている夏だ。
まだ聞くなと言うならば、決して話してはくれないだろう。
「もう風呂沸いてるから。ちゃっちゃと入っちゃって。」
「うん…。あのさ、夏くん…、」
のろのろと立ち上がりながら春樹が声を出す。
「…牡丹って、どんな意味があるんだっけ…?」
「幸福、だろ?」
「…幸福。…そうだったね。」
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キラリと日の光に煌めいた切っ先が、生き物のように呼吸しているかに見えた。
それは錯覚で、本当は激昂し肩を上下させる男のせいだ。
緊張が走り抜ける。
芳郎はとっさに、ゆきを背後に押しやった。
その仕草がさらに男の激情を刺激する。
美しく清廉なる墓。
幸せの結晶のような、家族。
幸福の、花。
自分には得られなかったもの。
それを目の前に並べられている。
男には目を逸らすか、破壊するしか道はないように思えた。
そして今の気持ちの向かう道は、間違いなく破壊、だ。
じっとりと汗をかきはじめた右手の小刀を強く握り直す。
切っ先が、芳郎を捉えた。
「…あの人、おばあちゃんに似てるね?」
緊迫した雰囲気を崩したのは、幼いゆきの一言。
涼しげな、鈴のような声。
まるで明花の笑い声のような。
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「…春、こぼしてるよ?」
ぼんやりとしたまま箸を動かしていた春樹の隣で、様子を伺っていたゆきだったが、たまらず声をかけた。
さっきからぼろぼろと食卓を汚していた春樹。
夏は素知らぬ顔で綺麗に食べている。
「え…?…あ、うわっ?!」
凄まじい手元を目視して、ようやく春樹が我に返る。
「ほれ、ふきん。」
夏が差し出したふきんでテーブルを拭く。
せっかくお風呂に入ったのに、口の周りもべとべとだ。
「はい、ティッシュ。」
決して箸を置かずに、夏が箱ごと差し出す。