有料散歩
本当は、一度でいいから思い切り走ってみたいと願っていた。
体育の授業はいつも見学だった春樹にとって、同級生が揚々と駆け回る姿を見るのはとても辛かった。
惨めで寂しいから。
思い切って足に力を入れ、膝に弾みをつけて駆け出す。前方にいる夏を追い越し、光の粒を避け、思いのままに走った。
自由な翼を手に入れたような、えもいわれぬ高揚感。走る喜びを大声で叫びたくなる。
後ろから、追い越したはずの夏が駆けて来た。歩幅が広い夏はすぐに春樹に追いついた。
「たく、どこまで走る気。」
肩を掴まれ制止させられた春樹は、満面の笑みを浮かべている。
「走れるとこまで。」
少年らしい表情の春樹を見て、夏は苦笑する。
「ほんと、どこが素直でいい子なんだか。まるで悪ガキだ。」
そう言いつつも口調は柔らかい。
「ほら、木の思い出探すから。こっち。」
歩き出す夏に並んだ。
「僕、悲しいのはやだよ。」
思い出の粒を吟味している夏に注文したが、春樹の要望なんて軽くあしらわれてしまうのだろうなと諦めの気持ちは既にあった。
「ん。わがままだなぁ。生きてれば悲しいことの一つや二つあるもんだ。」
「でも、最後が悲しいのはやだ。」
「いや、そんなハッピーエンドに作った映画じゃないんだから。」
「でもまぁ、木の思い出なら悲しいことはないよね。」
なんとか自己解釈をして納得した春樹に、夏はにんまり顔を向けた。
「それはどうかな。」