トリップ

断りと誘い


レポートに使った資料の本を図書館に返しに、そして、写真に映す用に借りた弓矢を弓道部室に返すため、エリカは学校に向かった。

学校に着くと、エリカは図書室に足を運ぶ。レポートの内容は、昔の日本、戦国時代の文化についてのことだった。
弓矢を抱えたまま本を返却し、次に中庭を抜けたところにある弓道場に向かった。

途中、2人で歩く女子達の会話を小耳に挟んだ。

「駒南先輩、カッコよかったー」
「王子って感じもあるけど、武士にも見えるよね!」

一瞬、エリカの中で鼓動のようなものが「ドクッ」と鳴り響く。

―まさか、弓道場にいるのか?

それが周りに聞こえているような気がして、恥ずかしい気がして「鳴るな」と念仏を唱えるように言う。

弓道場に入ると、トスッと矢の刺さる軽い音が道場に響いた。

静か過ぎて、周りの雑音が聞こえないように思える。袴姿の彼は、誰にも聞こえないくらいの小さな吐息を漏らし、また矢を命中させる。

ウェーブがかった黒髪が、フワリと風に揺れた。
リクがエリカの存在に気付き、弓を下ろしてこちらを向く。
前髪に隠れた瞳が真っすぐこちらを向いた。リクは何も言わずに見つめている。

ドクッ、ドクッと、心臓が遅いテンポで鳴り響く。

また先ほどの鼓動。
エリカは首を振って顔が火照っていないかを心配する。

弓矢を返しに来ただけなのに、まさかこんな形で会うことになるとは、とエリカは緊張息を吐く。








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