トリップ

「・・・ク」

上から、彼が手を差し伸べてきた。

「おいで・・・」

まさか、と俺は目を開いた。嬉しくなって、口を開く。一瞬、苦しさが消えていった。彼の手を掴み、力強く育て親の手を握った。温かく、包まれているような感覚だ。

急に、全ての困難から救われた気がする。ああ、もう安心だ、と普段思えなかった事を考えた。
だが、手を握った相手の顔をよく見ると、俺は血の気が引いた。唇が震える。

彼ではなかった。

目の前にいたのは、俺から育て親、それであって師匠でもある彼を殺めた、あの警察の顔。

「貴様・・・」

こっちに来るな。手を放そうとしても、放せなかった。接着剤でくっ付けられているか、糸で縫い合わされているようだ。

「あぁぁぁっ・・・」

情けないくらいの悲鳴を、俺は知らぬ間に上げていた。悲痛でかつ、情けない声が耳に響く。





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