トリップ
black a memory

キャプテンが出来るまで


電話をかけても、エリカが出る様子は無かった。金曜日なので次の日は休みとなっているから話そうと思ったのだが、いくらかけても電話に出てくれないのだ。

「おかしいなぁ・・・」

キャプテンは首をかしげて電話を切る。ノートパソコンの前に座り、いつものノートを開いた。見ていてキャプテンは気付く。章や話の区切りがいくつかあるうち、その中の数話が飛ばされて進んでいる。今の前のページも、50ページ以上も進んでいる。
すべて、自分が出てきているシーンだけだった。

――もしかすると、この物語の主人公なのは、自分以外にもいるのか?

そんな疑問が浮かび上がってくる。たぶんそうだ、と仮定をつくる。たぶんこの小説は、色々なキャラクターの視線で物語を描いている。言わば「時と場合で皆が主人公」という特徴があるのだろう。
なぜ他人のシーンだけを飛ばすのかは分からないが、そこは考えない事にした。シナリオといえど、プライバシーの侵害だ。

小説のページを開きキーボードを叩いて飛ばされた50以上のページの事を考えていると、なにかが無意識に頭に浮かんだ。

血の海と化した立体駐車場の頂上手前、白に統一された病院の一室、謎の黒髪の青年(いや、少年かも知れない)、紅涙学園の校舎、その次に来たのは中国語で書かれた火事の新聞記事、もやしの出された八百屋、拳銃を突きつけてくる先ほどの黒髪青年、中型のライフル、次に出てきたのは普通の家の部屋、青い瞳をして鼻の高い中年の一歩手前の男、見覚えのある神社と、その下に添えるようにして置かれた1輪の花。

ボーっとしていたキャプテンはやがてハッとして見回す。しかし、自分はちゃんと自分の部屋にいる。

なんだったんだ、今のは。
初めて見る光景が多かったのに、どこか「思い出した」ような感覚があった。

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