夜中散歩
moon
「うるさいんだよ」

私が言うと、父は一度だけ私を叩いた。
ひどく痛む右頬を押さえていると、母は何も言わず私の元へ歩み寄ってきた。
眉を下げて、何か言いたいような顔。
なんか言いたいなら言えばいいのに。
気遣っているんだろうか。それとも馬鹿な娘と同情されているんだろうか。
そんなことよりも、みんなが待っているところへ行かなきゃ。

日付が変わった頃、いつものように家に帰った。
玄関に入って自分の部屋に行こうとしたとき、リビングから父が出てきた。
面倒くさいことになる。そう感じた私は掴まれた腕を離そうとした。
「離して」
そう言って部屋に上がろうとする。
「お前こんな時間まで何やってた」
階段を数段上がったところで、父が問いかける。
「散歩だよ、散歩」
「こんな遅い時間までか?」
返事をするのも面倒になって、そのまま部屋に入った。
それからも父は何度か質問を投げかけてきたけれど、無視して音楽をセットした。

今日友達から教えて貰った曲。
一度聴いたとき、正直どこがいいんだか分かんなかったけれど、いいと言われたからとりあえず聴いてみる。
部屋の電気もつけず、真っ暗の中で携帯のランプが光る。
携帯を開いてみると、いつも遊んでいる友達からの電話だった。
「もしもし、満月?」
「はいはい」
「今さー紗枝たちと遊んでるんだけど、来ない?」
「行くー」
「じゃあ待ってるね」
それだけで遊びの約束が決まってしまう。
電気をつけて髪を整えると、赤いコートを着る。






< 3 / 126 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop