夜中散歩
「あんなとこはもう勘弁」
ため息を吐き出して私が言うとすかさず「どうして?」と聞かれる。

「明るすぎて、眩しくなっちゃったんです」

空いたグラスにお茶を注いだ。いつもの癖。
お客さんのグラスが空になりそうになると、注いでしまう。
誰かが煙草を吸おうとすれば火をつけようとしてしまう。
それが普段の生活でも出る。

「まー、Dearestはそういう競争みたいなのがないからいいよね」
頷く私。

「小雪さんは?オープンしたときからDearestに居るんですよね?」
「うん、店長に誘われたからね」
「それからずっとナンバーワンなんですか?」
「違うよ、ずっと二番目だったよ~、不動の一番が居たからさ」
意外な返事が返ってきて驚いた。
「あ、それが葵さん・・・?」
「そう、葵」

葵さん。
私が入店する前にDearestを辞めた人。
写真でしか見たことがないけれど、すごく綺麗な人だった。
オープンからずっとナンバーワンで、葵さんが辞めてから小雪さんはナンバーワンになったらしい。

「葵だけはどんなことしても抜けなかったな、それこそ枕やらなきゃいけないってぐらい」

枕、お客さんと寝るってこと。

Dearestでは常に一番の小雪さんが、そんなことを言っても超えられなかった相手。

「普通のキャバ嬢が持ってないものを葵は持ってる子。あとちょっとってところで辞めたんだよ~、ずるいよね」
「もうお店で働いたりはしてないんですか?」
「うん、もう水は上がったって」
「そうなんですか」

少し残念に思えるような気もする。
どんな人なんだろう、葵さんって。
会ってみたい。そう思った。



< 97 / 126 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop