【中編】夢幻華
晩夏の花火~幼い日の約束~
今日は花火大会。

少し早い時間に暁(さとる)は杏(あんず)を連れて夜店に出かけた。

左右の高い位置で二つに長い黒髪を結い上げお団子にした杏は、大きな青色のリボンが嬉しいらしく、何度も暁に「可愛い?」と聞いてくる。

「うん、かわいいよ」

そう言って頭を撫でると、嬉しそうに暁の手を取って歩き出した。

夏の夕刻はいつまでも明るい。

それでも夏休みも終わりを告げようとしている最後の週末は、少し秋の気配の風を運んできているようだ。

いつもだったら杏も疲れてぐずる夕刻だが、今日は、白地にリボンと同じ色のアサガオをあしらった浴衣が嬉しかったのか、疲れた様子も見せずはしゃいでいる。

杏は大きな目をキラキラさせて、あちこちウロウロしているので、しっかり手を繋いでいないとすぐに見失ってしまいそうだ。

友達に誘われていた暁は、父親から『杏を祭りに連れて行ってやれ』と言われた時、うんざりしたのが本音だった。

杏は好きだが、もう、自分は10才だ。妹みたいなものとはいえ、女の子を連れて歩きたくは無かった。

友達に会えば冷やかされるのが分かっている。

出来れば誰にも会いたくないな…。
暁は杏に気付かれないように小さく溜息を付いた。

学校の奴にこんな風に手を繋いでいる所を見られたら、何を言われるか分からない。

暁の気も知らず、大好きな暁とのお出かけが嬉しくて仕方が無い杏は、暁の腕にぶら下がるようにして抱きついてくる。

暁としては杏は妹のようにかわいいのだが、やはり周りの目を意識してしまうのだ。


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