【中編】夢幻華
酔っていたので少し遠かったが、酔い覚ましがてら歩いて百合子のアパートまでやってきた。

歩きながら響に言われた事や、杏のこれまでの態度…。

いろいろな事に思いを巡らせていた。

改めて思い返せば、杏が俺を好きかもしれないと思える節が幾つもある。

何故…今まで気付かなかったんだろう。


ピンポ~ン♪


呼び鈴を鳴らすと、部屋の奥から小さな声で「ハイ?」と声がする。

「俺だ。開けてくれ。」

カチャカチャと鍵を開ける音が聞こえ、程なくドアが開く。

洗いざらしの長い髪を腰まで垂らし、綺麗な二重の大きなハシバミ色の瞳を見開き驚いた顔をしている。

こんな時でも、やはり杏に似ていると思う…。

「暁?どうしたの。こんな時間に…。」

「ごめん。どうしても話したいことがあって…。上がっていいか?」

百合子は一瞬眉を潜め、少し考えてから『余りいい話じゃなさそうね』と答えた。

言葉に詰まり息を呑む。

「クスッ…。暁って感情が手に取るようにわかるわね。すぐ顔に出るんだから」

「なっ…なんだよ。いきなり」

「何も言わなくてもわかるって事。あたしに気持ちの無い男を部屋に上げるほど、あたしは優しくないのよ」

「……っ!」

「心が決まったのね? あなたはもう、パートナーじゃないわ」

「…なんで? 俺何も言ってないのに」

「だから、わかるんだって。今日の暁の瞳には、今までみたいな迷いが無いもの。不安も苛立ちもどこかに捨ててきたみたいな澄んだ瞳をしている。

そんな綺麗な瞳をした人と一緒にいたら、自分が醜く見えてくるもの」

そう言うと百合子は悲しげに瞳を伏せた。




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