【中編】夢幻華
「………ごめん。できない」

俺がそう言うと百合子は嬉しそうに微笑んだ。

「うん、合格。もう大丈夫。暁はきっと幸せになれるよ。たとえ杏ちゃんに振られてもね?」

「ひでえこと言うなあ」

「あははっ、だって、振られる事だってあるわけでしょう? それでも今の暁なら、きっと諦めずにいつか振り向かせる事が出来るわよ」

「そうかな?」

「そうよ、頑張ってね。あたしが言うのもおかしな話だけど、勇気を出してぶつかってみたらきっといい結果が出ると思うわよ」

「それを、おまえが言うのか?」

「クスクス…だから、おかしな話だけどって言ったでしょう?
あたしもいつか、そんな風に前向きになれる日が来るのかな?」

そう言って遠くを見つめる様に投げかけた眼差しは、彼女の愛しい人が住む方向に向けられていた。

「ああ、きっと来るさ。おまえを本気で愛してくれる男が現れたときにさ」

俺はそう言うと、百合子への感謝の気持ちを込めて微笑んだ。


どんなに想っても叶わない恋。
愛しくて恋しくて、傍にいるのが辛すぎたからこそ逃げだしたのだと、いつか彼女は言っていた。
最後まで聞くことは無かったが、俺に似ているという百合子の想い人は、どんな奴だったのだろう。
そういえば、その男の夢を見た翌日は、必ずソイツの仕草を真似て欲しいと、あれこれポーズを取らされたよな。

百合子の恋は本当に報われないのだろうか?
こんなにも切ない想いを抱えたまま、独りで生きていくのは余りにも可哀想だ。
百合子はもっともっと幸せになるべきなのに…。

俺にはもう何もしてやれないけれど…
せめて彼女が幸せになるまでは、遠くからずっと見守ってやろうと思った。


愛する男性(ひと)を想う百合子の横顔はとても綺麗で…


ガラス細工の人形のように儚げだった。


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