河童沼ロマンティック


しかし私もおじいちゃんの孫です。
ここで客人を追い払うなんてことをすれば、おじいちゃんが悲しむに決まっています。

父に事情を話すと、彼もさすがおじいちゃんの息子でした。

リビングで男二人は杯を交わし、私は少ない材料でおつまみを拵え運ぶ。

その度に目が合う川原さんの笑顔は、どんどんと私の心の中に巣食って行くのでした。

「緋央ちゃんもこっちへ座りなさい。一緒に飲もうよ。川原くんはおもしろい青年だよ」
父のその言葉に、お料理を出し切ったお台所をうろうろしていた私は、リビングの川原さんの向かいのソファに腰を降ろしました。

「楽しそうに何の話してたの?」

川原さんが私を見て、ボトルを持ち上げます。

グラスに注がれた金色の液体は、オレンジ色の灯りを反射してきらきらと波打ち、私はその液体越しに川原さんを見ました。

川原さんはおかしそうにあちらから覗き込みます。

「川原くんも旅が好きなんだって。緋央ちゃんとも話が合うんじゃない?」

ふたりの様子も知らずに、父はお喋りを続けています。

旅行好きな父ですから、同じ趣味を持つこの好青年と旅の話で盛り上がっていたようでした。

私は父を見るふりをして、グラスの中のあの人から視線を反らしました。

でも本当は、胸の中でその金色のお酒のように揺れている心を川原さんに見透かされるような気がして、目を反らしたのです。


すっかり打ち解けて仲良くなった男二人の楽しそうな会話に入れてもらい、私達は初めて会ったとは思えないくらい沢山お喋りをし、飲んで、笑いました。

そしてちらりと川原さんを見ると、彼も私を見るのでした。

それだけでお腹がいっぱいになる。

だってそこに好意が含まれているのを感じていたから。

私の好意も、彼は感じていたと思います。


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