空に手が届きそうだ
ふっ、と声のする方を見ると、優が笑って手を振っている。
屋上に続く階段の上にある、小さなスペース。
そこは、学校の中で、一番高い所であり優の居場所。

手を降り返すと、
「降りるし、待ってて」と言われた。

純一郎が頷いたのを見ると、優はゆっくり梯子を降りた。

「久しぶりだね。」
何も変わらない純一郎に、安心した。
「ごめんな。」
「ううん。ありがとう。」
「なんで、怒んねぇの?」

ここに来るきっかけを作ったのは、自分なのに……。

「気にしないで。」
小さく、俯いてゆっくりフェンス越しに街を見た。

「あんま好きじゃなかったし、あそこ。」
ぽつり、ぽつりと純一郎に聞こえるようにゆっくり話した。

「本当はね、ずっと逃げたかった。けど、逃げたら負けな気がして逃げなかった。」
「優…………。」
「でも、加瀬君が“頑張り過ぎるなよ”って言ってくれたからなんか安心しちゃったみたい。」

だからかな、自分の意見も言えたし。と、独り言のように呟く。

「居場所、無くなってないよ。」
「えっ……。」
「だって、こうして毎日のように加瀬君が私を探してくれるから。」
「だから、自分を責めないでね。」

小さく、頷いた。
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