好きだから…

きもち

いつからだろう…。
気が付くと彼の姿を目で追っている自分がいた。
一年半前はその姿しか知らなかった彼。
名前も、どんな声なのかさえ知らなかった彼。
私は自分に問いかけた。
『憧れだよね?』

優しいその瞳と人当たり良く発せられるその言葉。
私が初めて見たあの日に感じた通り、彼は周りから慕われる存在だった。
まだ言葉を交した事もない。
ただ、話してみたい。
そんな気持ちが大きくなっていた。

『話題も無いし…。』
私は、なかなか話せるチャンスを掴めずにいた。
週に何度も顔を合わせる事があっても、話しかける言葉が見つからない。
「おはようございます。」
「おつかれさまです。」
こんな決まった言葉を繰り返す日々が続いた。


彼を見掛ければその日は一日中幸せな気分だった。
見掛けない日は、彼が現れそうな場所に自然と足を運んでいた。
プロジェクトの打ち合わせの日には、『彼に会える!』と心が高鳴り、浮かれていた。
メイクにも気合いが入る。
何を着て行こう…。
そんな事を考えている事に気が付いた時には、もう「憧れ」ではなくなっていたのかもしれない。
< 3 / 12 >

この作品をシェア

pagetop