鏡の中の僕に、花束を・・・
16
「お先です。」
僕は彼女のいるリビングを抜け外に出た。今日は、色んな事があった。だからボロが出ないようにとの思いもあり、敢えて彼女をあまり見ないようにした。
なのにだ。外に出た途端、彼女の顔が頭から離れない。無性に気になった。
玄関を出てすぐ僕は走った。と言っても、本当にわずかな距離だ。そして、物陰に隠れた。
「ここで待ってれば来るよな?」
僕は彼女を待ち伏せする事にしたのだ。端から見ればかなり怪しい人物に見えたはずだ。いつもならそう言うのを気にするのに、この時はなかった。心の中にあるわだかまりを消し去らなければ、どうにも落ち着かないからだ。
十分、二十分・・・。時間は過ぎていく。しかし、彼女は一向に来ない。ここじゃない道から帰ったのだろうか?
「遅いな。」
たまに警官などが通りかかると、待ち合わせをしているフリをした。その時は無事にやり過ごせたが、普通に考えれば、こんな電柱の前にあるゴミ捨て場で待ち合わせなどするはずがない。何度目かで捕まるだろう。そんな気がした。
結局、一時間以上待った。
それでも、彼女の姿はない。今日は諦めようと思った時だ、彼女の姿が見えた。
「あっ!」
勢いで声をかけようとして、やめた。いきなり声をかけて、彼女はどう思うだろう。そう考えると、躊躇した。
駆け巡る。頭の中を様々な考えが駆け巡る。しかし、誰としてまともなものはいない。使えないやつらばかりだ。こうしている間にも、彼女は近づいてくる。いっそ、このまま逃げた方がいいのではないかとさえ思えた。
「千代田君?」
遅かった。彼女に気づかれてしまった。もう、どうする事も出来ない。
「あ、あぁ、こんばんは。」
気の利いた台詞なんて言えない。
「どうしたの?ずいぶん、前に帰ったよね?」
「あ、うん・・・。そうだね・・・。」
目が泳ぐ。彼女をまともに見れない。おまけに、彼女は笑っている。きっと、僕の事をおかしいと思っているんだ。
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