この涙を拭うのは、貴方でイイ。-大人の恋の罠-


言わずもがな、祐くんの目の前でされる意味が分かんない・・・



「――だから黙ってろ」


そうして後頭部を圧迫する手が離れる瞬間、鼓膜をブルっと震わせた声色。


もはやあまりに鮮やかすぎる芸当に、私は目を大きく開いたままなす術も無く。


開けた視界は祐くんのブルガリのネクタイを捉え、それ以上に上を向けなくなる。



触れたばかりの生々しい感触に戸惑って、ただ口を右手で覆うとは中学生か私…。




「…なぁ、エサ横取りのハイエナくん」


「っ・・・」


すると静まり返った状況で、ヒューと口笛を鳴らす祐くんにズキリと心が痛んだ。


この態度を取られて、傷つかない方がオカシイよ――



「何とでも言えば?
餌を放置しない点では勝るだろ」


飄々とした声色で返す尭くんにも気まずさが先行し、アスファルトをひたすら見つめる私。


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