雷の薔薇 エクレールローズⅠ

黒い雨

眩しい…。光を受け付けなくなったのはいつからだったか…。






十字架に銀の鎖で磔にされている。何処かの搭…。光が入り込み当たるように窓が付いている。






何十にも強力な結界が施してある。






窓からの光…。カビた部屋のにおい。
「イリス…。おはよう。」





眩しい笑顔…。清んだ瞳…。まるで夢の中…。
「おはようございます!神父様…。」





あれは…。私か…。
遠い日の記憶…。
何故今思い出したのか。





カツンカツン…。階段を上がる音がした。






青い顔の少年…。
「子どもか…。」






手には杭に木槌…。
「悪魔…。父の仇…。」





全身が震えている。怒りに恐怖。






黄金の目が細くなる。
「そんなで私に打てるの?」





赤い唇がうっすら笑う。





「殺れるさ!!悪魔は地獄に帰ればいい!」






杭を振り上げた。黒い翼の心臓へ。





目を閉じた瞬間…。雨のにおい。笑い声。
「それでいいのか?」






目を開ける。黒い霧。白く濁った目の少年が体に寄りかかる。次第に少年の体は腐敗し消えてしまった…。






魂さえも救われない…。消えた少年の跡に杭が転がる…。






それでもイリスは逃げない。






「こちらに御出になったのですね…。」






クック…。と声のみ響いていた。






黒い雨がこの世に現れた。すなわち、生あるものの死を現す。






魔王降臨…。天の聖なる結界はなくなった。






「終わりにしましょう。狂信者どもに終焉を…。」






笑い声は直も響いていた。





犯した罪は重く…。癒えることを知らず。
昔の記憶は戻らず、通り過ぎるばかり。過ぎ去り日の光は消えた。






彼の名前は思い出せず…。憎しみは雷に変わり、愛するが為に天使は悪魔に成り果てる。
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