夕陽

「私、前自分のせいで人が死にました。
2人も。」

突然智咲は語り始める。
沖田は一瞬びっくりしたが、
智咲に尋ねる。

「なんで、死んだんですか?」

「1人は、刃物を私に向けた人から
庇って、その刃物が腹に刺さり、
死んでいきました。
もう1人は、
その死んでいった人の後を追って
死んでいきました。
あの人が死んだのは、
あんたのせいだ、といって。
私は、2人も殺しました。
今でも時々夢に出てくるんです。
私の過去が。」

智咲は自分のことを沖田に話しはじめる。

「違いますよ。」

「え?」

「その人たちは、あなたのせいで死んだんじゃ
ありません。
自分で死んでいったんです。
1人のひとは、
智咲さんを助けようとしなければ、
今も生きていられるはずです。
もう1人のひとは、
ちゃんと現実を受け止め、
前を向いて歩いていけば
多少の心の傷は残るでしょうが、
幸せな人生を送れたんじゃないんでしょうか?」

沖田は智咲にそう言い聞かせる。
半分は、自分に斬りかかってきて
死んでいった浪士たちを思い出して
自分にも言い聞かせる。


「でも、総司さんはやっぱり優しい。
死んでいった2人は私の両親で、
自分で死んでいった人がお母さん。
私を救ってくれたのが、お父さん。
2歳の時に死んじゃった。」

えへへ。と智咲は笑う。

「半分ね。
お父さんとお母さんを殺したのは私だ、
と言い聞かせて生きる動力にしていってるの。
そうやってお父さんとお母さんの分まで
生きていって、皺くちゃのお婆ちゃんになったとき、
お父さんとお母さんに会いに行くんだって。」

智咲はまだ明るい空を見上げる。
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