微笑みは瞳の奥へ(更新休止中)

その反応に引っかかる物を感じ、ついムッとしてしまう。

「……何?」

変な事を聞いただろうか。
名前を聞いただけだ。


「芳野です」

これも、無表情で答える。

「よしの、さん……牛丼屋と一緒の字?」

「……。“の”は同じですが」

「へー……」

そこで会話が途切れてしまう。

有名牛丼チェーン店と同じ読み方の苗字を持つ彼女は、会話を弾ませようとする気はさらさら無いようだ。

「どういう字?」

「……」

彼女はエプロンのポケットから小さなメモ帳を取り出して一枚破き、“芳野”と、苗字だけを書いて俺に差し出してきた。

無言で。

「こういう字です」とか、何とか言えよ!


「では……明日の朝に。失礼致します」

芳野さんは軽く会釈をすると、目を逸らすように踵を返し、そのまま廊下の先の階段を下りて行く。


芳野さん、芳野さんか……。

「失礼致します」とか言っていたけど、ある意味本当に失礼な人だ。
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