水晶玉は恋模様
それから数日。
世はゴールデンウィークの真っ最中。
何故、私は此処に来てしまったのだろう。
私は今、あの名刺を握り締めてビルの前に立っていた。
ここの5階だって書いてあるけど……。
自動ドアをくぐると、私はエレベーターに乗り込み、ボタンを押した。
『チン』という音がして、エレベーターが止まる。
廊下の真正面に、灰色のドアがあった。
私は恐る恐る『柳沢占い事務所』と書いてあるそのドアをノックした。

「開けなくても分かるよ。この前の牡丹ちゃんだね」

ドアの向こうから、すぐに返事が返ってきた。

「あんたが来ることは分かってたよ。さあ、お入り」

ドアが開き、私は部屋の中に通された。
事務所の中は、一面紫の布が掛けられていて、天井から色々な果物がぶら下がっていた。
そして私が想像していたような、怪しげな生き物の骨や、儀式に使われていそうな仮面があった。
私はきょろきょろしながら、占い師の後をついていった。
奥に通され、紅茶が振舞われた。
私が『いらないです』と言おうとすると『いいから飲みなさい』と言われてしまった。
私がお茶を全部飲むと、コップの底に残ったお茶葉を、なにやら占い師は分析し始めた。
そして、コップを置いて、こう言った。

「さて、お前はすぐにでも占って欲しい、そうだね?
このお茶の葉っぱを見ればよく分かるよ。
さて、私の名前は柳沢 香奈枝(やなぎさわ かなえ)。よろしくね。」

そして香奈枝は、水晶玉に手を当てた。

「さぁ、始めるよ」
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