あひるの仔に天使の羽根を

芹霞の身体を玲が見たという事実。

芹霞の肌に玲が触れたという事実。


何のためかと判ってはいるものの、それでも納得できない俺の"男"。


芹霞の"邪痕"の明瞭さに、耐え切れず、それ以上の思考が進まず…強制的に休憩にしたほどだ。


医者と患者の立場ではない、男と女が裸体で絡む閨の中、芹霞が俺の名を呼んだということに、特別な意味を持たせて必死に縋っていたい自分が居る。


お前が俺を見ないというのなら、拒むというのなら…そうさせる原因を取り除くまで。


俺がお前を理解するまで。


お前にそうさせる原因が俺にはある。


そう認識した上で、それを改善した上で、お前を引き寄せるしかない。


――芹霞ちゃあああん。


もしお前が8年前のあの姿を求めるというのなら。


もしお前が今の俺を嫌がるというのなら。


俺は――


「……こんな…こんなはずじゃっ!!!」


拳で叩きつけたタイルから、跳ね返る水飛沫が頬を掠める。


俺は水の量を最大限にして、勢いよく撒き散らし始める蓮口に顔を向け、目を瞑りながらその刺激を受けた。


俺の中の不浄なものなど、芹霞を苦しめる穢れなど、洗い落ちてしまえ。


降り注ぐ冷水と共に、後悔も溢れ流れ落ちる。


芹霞以外に愛を告げたこと。


俺はそのことについて、芹霞に何も言っていない。


謝るタイミングを逃してしまっている。


謝って――済むのだろうか。


ああ――


須臾を芹霞を間違えるなど、愚かしい俺の罪など消えてしまえ。


俺は唇をごしごし擦る。


芹霞以外の唇に触れた俺は、許されるのだろうか。


芹霞だと思っていた。


それは言い訳になるんだろうか。



ああ――


俺は、芹霞を手繰り寄せられる資格があるのだろうか。

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