あひるの仔に天使の羽根を
 

「緋狭さんはこの紙の存在を知っていた。緋狭さんすら敵わないという奸計家の白皇が此処に居て…"約束の地(カナン)"の実態に仇なす僕らの行動を、黙って赦しておくはずはないと思うんだ」


「じゃあどうするよ!? ここで俺達が動かないと、他に芹霞を助ける方法ないんだぞ!?」


煌の荒げられた声に、玲様は益々険しい顔をして考え込んだ。


「桜、壊せよ!! 方法がなくて、そして破壊しても芹霞が何ともなさそうならば、壊してしまえよ!!! どうせロクでもないからあるんだろうし!!!」


私は困った顔を玲様に向ける。


「玲様。本当に……桜この上なく恥ずかしくて情けない心地で一杯なのですが、実は……この馬鹿蜜柑と同じ意見なんです」


「は、恥ずかしい!? 情けないって何だよ、桜!!!」


無視。


「芹霞さんに無害であるならば、後での"やっぱり壊しておけば"という後悔の選択肢はなくしましょう。時間がないんです、玲様!!!」


「桜……。そうだね、じゃあ頼むよ。櫂にもそう伝える」


「はい!!!」



そして――


目の前の残骸。


「よし、芹霞は大丈夫だ。じゃあ次行こうか」


玲様の声に導かれるようにして、私達は駆け回る。


そして行きあたったのは、例の黒い扉。


玲様は櫂様の石を握り直して、煌の腕環に合せる。


弾かれる私は完全傍観者で。


それは分にも見たぬ僅かな刻。


拡がる闇。


見慣れた手の形。


扉が開く音。

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