あひるの仔に天使の羽根を
 

やはり――。


旭は、一目で煌と櫂に対し警戒を抱いていた。


警戒……以上に、冷たい光さえ時折見せて。


それは限りなく、憎悪に近く。


月もまた然り。旭ほどではないにしても。


手当の場所と道具を懇願した僕に、双子は拒む姿勢を見せた。


海の雑菌がついた櫂の傷を放置しておけば、櫂いえども致命傷になりえるから。そして櫂が護っているとはいえ芹霞も、手術をして昨日まで入院していた身の上、出来るだけ早く清潔な場所で手当てしたい。担当医としても、"僕"としても。


さてどうにかしようと思案していた時、窮地を救ったのは意外にも煌で。


煌を擁護する月の後押しで、旭を説得させた。


明らかに――おかしい。


僕が見た時には、月は煌に好意的ではなかったはずだ。


突然、煌に協力的になった月。


背中にあるのは、確かに羽根。


毟り取られたような片翼。


天使だと、真摯な顔で旭は言った。


女性に懐く月。


僕に近寄らないのは、無意識にしても"男"を感じ取っているのか。


"お兄ちゃん"


双子は、男性陣に対してそう呼ばない。


まるでその名称が、知識から抜け落ちたかのように。


その月が、煌に対して態度を軟化させたのは不自然で。
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