あひるの仔に天使の羽根を
 

「"聖痕"を?」


「そうだ。お前が俺を愛したというのなら、俺に欲情しているというのなら、出ているはずだ。故に恋することを禁じられてきたんだろう? それとも俺に対する愛は嘘か? それなら他の男を捜せ。俺はお前に選ばれる理由がないし、俺がお前を選ぶ理由はない。契約は不成立だ」


「………」


「"生き神様"に愛を捧げる巫子が、ここで俺への愛を宣言するか? 不誠実なお前に、"聖痕"は出るはずはないだろうな? 出ないなら…"聖痕(スティグマ)の巫子"の資格は剥奪されたということだ。益々持って俺の居る意味はない」


馬鹿にしたような物言いに、須臾は顔を歪ませる。


「見せる自信がないのか?

それなら――

…出してやろうか、俺が。

皆の見ている前で、"聖痕"を」


その笑いは、妖しげな色気に満ちたもので。


あたしが知る櫂のものではない、貪欲な"紫堂櫂"の持つものなのだろう。


おかしな色気放って、櫂は一体何をしようとしているの?


目を細めた須臾の前に割って入ったのは荏原で。


「お控え下さい、紫堂様。儀式の最中で揉められては…」


「怖じ気づいたのか?」


それは挑発的な言葉過ぎて。


くっと唇を噛んだ須臾が荏原に言った。


「いいわ、遅かれ早かれ…"聖痕"は顕れるのだから」


「しかし須臾様!!!」


「お黙りなさい、荏原」


そして須臾は――


着物の帯に手をかけて…


「な!!?」


するすると帯を解いていって…


着物が腰まではだけて――

白い裸体が露わになった。


すると、くっと愉快そうに口端を歪めた櫂。


一体、何を考えているの?


切れ長の目には、須臾の裸体しか映っていない。



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