あひるの仔に天使の羽根を
 
まだまだ、俺への愛は"美"には敵わぬらしい。


まるで人事のように、そんな愛や美など…どうでもよく考える俺は…非情なのか。


少しでも、情を交わして愛を囁いた相手に、ここまで冷酷になれる俺は、心が冷え切った男なのか。



だけど。


俺の中には芹霞しか居ないんだ。


お前に恋愛感情で欲されたくて、結果今の俺についてきたのが、須臾が執着した"美"だというのなら、元よりそれはお門違い。


昔も今も、他の女など入る隙間がない。


俺の全ては芹霞の為にある。


紫堂における立ち位置も、お前を守るものだから。


毛色が違う惰弱な俺が、紫堂に馴染むまでの時間…どんなに大変で辛いものだったのかなんて、今更訴えるつもりも自慢する気もないけれど。


判って欲しいのは、俺の決意。


あの頃の俺の全てを投げ捨てても、芹霞を手に入れたいと思った"男"の心。


長い間、俺はずっとずっと想い続けてきたんだ。


その俺の想いを…俺の矜持を、一瞬にして穢したのは須臾。


俺の想いは利用された。


そして気づけば、芹霞は玲と恋人同士で。


形式だろうがなんだろうが、短期だろうが長期だろうが、玲が本気な限りは同じこと。


芹霞は俺が戻っても尚、玲の愛を拒まなかった。



その現実がやりきれない。



芹霞の隣に立つ男は俺ではなくて。


芹霞は俺以外を隣に立たせて。



俺は――。



どうしてそんな時に俺は!!!



深い悲しみと同時に湧き上がる…不甲斐ない自分に対する強い苛立ちに、荒れ狂う衝動を止められない。



< 1,182 / 1,396 >

この作品をシェア

pagetop