あひるの仔に天使の羽根を
 

「まだまだ、弱いなあ…須臾。こんなのが、本当に"聖痕"か? これならば、芹霞の方がはっきり出ているぞ?」


あえて好戦的に須臾を煽れば、


「!!!」


須臾の目が鋭くなった。


芹霞へ向かう怒りの矛先をそらすように、俺はにやりと笑う。


「悔しいなら…もっとはっきり"聖痕"を晒せよ、"聖痕(スティグマ)の巫子"。"生き神様"の前で。どちらにしろ…俺と"生き神様"は1つになるのなら、誰も異存はないはずだ」


先程の台詞からは譲歩した…須臾の逃げを作り上げ、



「はっきりと、作ってやろうか? 今此処で」



俺は拘束具をついたままの手を伸ばし、薄い痣を見せる須臾の背中に触れた。


「今……此処で?」


つつつと背中をなぞる俺の指先に、ぴくんぴくんと反応を返す須臾の息は少しずつ乱れてきて。


「そう。今……此処で」



耳元に誘惑するように囁いてやると、振り返った須臾の頬が紅潮していて。



突き刺すような視線を見れば、"生き神様"庇うように立つ荏原からだった。


「……紫堂様…、神崎様が見ていますぞ?」


此処で出すか、芹霞の名前を。


「それが?」


迫り来る"あいつ"の気配。


だからもう…"時間稼ぎ"は終わりだ。



誰が――



「……要は、"聖痕"さえ出ればいいことだ」



浮気などするか。




笑いながら、視界に入れる須臾の背中。


覚束(おぼつか)ない女足の為に、揺れるその場所は――


やはり。


この痣は、須臾が"欲情"すれば濃くなるものなんだ。
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