あひるの仔に天使の羽根を

「この材質が持ちえる意味は…力の吸収、か」



櫂の呟きが聞こえる。


今までよく目にしていた、艶やかな黒に走る短い無数の赤色。


もしその模様が"吸収"を意味するのだとしたら、妙に忙しく動いているようにも思えるこの赤色は、力を受けて喜んでいる狂った生物のようにも思えてきて。



とにかく――


ロクなもんじゃねえ。



「さすがは紅皇のお弟子さんですね」


余力を見せて笑う様は、五皇の名を戴く者がしている不敵さで。



「やっぱり、お前がシロなのか」



返事の代わりに聞こえてきたのは、流れるような言葉。



「Pater noster,qui es in caelis,sanctificetur nomen tuum…」



英語とも違う妙な言葉を紡ぎだした荏原に、櫂の片眉が僅かに動き。



「"我らが父よ"、"天にまします"、"御名の尊まれんことを"…ラテン語? …だけどこれは"主の祈り"にしては順序が…」



そんな櫂の呟きと共に、荏原が宙に何かを描くと、突如それが目映い光を発して。


太陽を直射したようなその明るさに、凝縮された何かのエネルギーを感じる。


紅皇は"火"、氷皇は"氷"の力を持つこと思えば、


「ああ、シロは"光"の力なのか」


そんなぼやきを拾ったのはその本人で、


「紫堂の強い血がなくとも、詠唱や布陣なしで自然の力を操れるあの2人は化け物です」


緋狭姉、化け物扱いされたぞ?


そして。詠唱と布陣ありで自然の力を発動した荏原…シロは、


「邪魔立てもまた、奸計のうちに。此の土地は力に満ちあふれている。そう設計したのは私。正しい順序で10個で構成される聖句を並び替えするだけでも、それは神をも凌駕する力と成す。さあ…お逝きなさい」


途端放たれる閃光は。


櫂でもなく俺でもなく――


「え、えええ!?」


芹霞に向けられた。


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