あひるの仔に天使の羽根を
 
13年前。


チビ過ぎる芹霞とは判っていても、"惚れた"ということは見過ごせねえ俺は、気づかれない程度に舌打ちをした。


そして湧いた疑問を返す。


「待てよ。久遠も旭も、各務の住民も…生きて居るじゃねえかよ」


生きているから。


誰もが芹霞とそいつらの絆を不安に思っているんだ。


もし芹霞が惚れていたというのなら。


それが例え幼少であろうとも。


俺にも勿論、あの櫂にも長年靡かない芹霞であるからこそ。


生きてさえいれば、現在進行形が可能になるから、余計不安と苦痛を煽られてるんだよ。


"だから"、芹霞は手に入らないのかと。


元々俺達なんて、眼中外だったのではないかと。


「いや…死んでいる」


緋狭姉はゆっくりと首を横に振る。


「そしてその時点から時間は止まったまま。13年前の姿から成長していないのだ。芹霞の…夢の記憶のように。そう、生ける屍のまま」


「は!?」


「以前言ったはずだ。時間が無視された処に、此の地の本質がある、と」


――どの部分が無視され、どの部分が矛盾を引き起こすか考えよ。すれば自ずと、此の地の創案者たる男達の意思が見えよう



「その屍を"約束の地(カナン)"に移し、"約束の地(カナン)"という楽園にて"生"を与えたのは、偏にシロの策略。

此の地はシロにとっては好都合の…死者の楽園だったのだ」



それは――哀しげな緋狭姉の声音で。



「刹那は? 刹那はどうなんだ? 

狂った後、刹那は!!?」



わめくように叫ぶ俺に、緋狭姉は……。



「刹那は――生きている。

姿を変えて……」



そう――言った。



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